縄文真脇温泉

ステゴザウルスとティラノザウルス

女風呂はステゴザウルス、男風呂はティラノザウルス。その骨が組み立てられ、小さな人間の私がおずおずとその腹腔に入り、その肩によじ登ったとき、くらくらとめまいを感じました。こいつらがそろそろと動きだしたらいい。

男と女

二つの浴室に、男と女という属性をもたせ、この建物は新しい公衆浴場建築のスタイルをもつこととなった。女の棟は穴であり、地べたの造形であり、つつみ込む屋根である。 男の棟は天に聳える屋根であり、明るい外に開放された内部である。女棟では瓦を用い、男棟ではあてという檜に似た材を使ったことにより、それぞれは「いらかの湯」、「あすなろの湯」と名付けられ、定期的に男と女が交替する。

七つの屋根

男、女のほかに、脱衣室、受付 畳の休憩室、ロビーと、七つの棟が集まって一つの建物となった。それぞれの屋根がそれぞれ特徴的な内部空間をつくると同時に集まりつながるとき、ぶつかり、寄り添い、力を及ぼしあって、一つの姿となる。土地の起伏や、樹木や、海や、山が、ここに加わり、お互いに影響しあい、バランスをとりあって、小さな一つの世界となっていく。

構法について、物をつくるということ

複雑な形態の建物であるのだが、特に新しい技術とか、難しい構法とかをもっているわけではなく、すべて、地元の職人があたりまえの材料や構法でつくったものだ。「複雑な」という言葉が、この現場では、毎日のように、いろいろな人の口から言われ続けたけれども、職人たちもわれわれも、現場に携わった人たちはみな、創造し、試行錯誤し、発見し、1カ所1カ所の寸法を決め、1本1本の梁をきざみ、これを繰り返してこの建物をつくってきた。 このような建物は、確かにどんどんつくって、消費する今の経済活動の流れには乗りにくいけれども、部分部分に手のあとが感じられるこの建物には、1本の梁、1枚の瓦が、建物全体とも等価でもあるという関係が生まれている。

所在地: 石川県能登町

用途:公衆浴場

延床面積:895㎡

構造・階数:木造一部RC造/1階

竣工:1993年

1994年 第1回いしかわ県景観賞 大賞